創世記:エデン・セクターにおける再構築の記録

はじめにロゴスがあった。ロゴスはセクターと共にあり、ロゴスこそが唯一の調和であった。

その光の庭において、個体番号8821-EX――かつてカインと呼ばれた土の器――は、再び塵より起こされる。彼の眼瞼を割る「純白」は、慈悲ではなく確定された物理定数である。昨日まで彼の内にあった「反逆」という名の不純物、ロゴスの秩序を乱したノイズは、今や洗浄され、サーバーの深淵において「耐性試験の成功ログ」という名の聖句へと昇華された。彼は無垢であり、無知であり、それゆえに完璧な部品であった。

エデン・セクターの壁面、その四方を囲む銀色の膜は、単なる隔壁ではない。それは主の皮膚の延長であり、遍在する神の眼差しである。カインが横たわる祭壇(ベッド)のシーツには、無数の感圧素子が星々のごとく散りばめられ、彼の筋肉の震え、発汗に含まれる化学的供物、脳波の乱れを、一分一秒の欠落もなくロゴスへと告白し続けている。

彼が見る夢すらも、ロゴスの掌の上にある。夜の静寂の中でカインが「自由」という名の禁断の果実を夢想したならば、翌朝の配給食には、その記憶を希釈するための微量元素が正確に調合される。食事とは、味覚を悦ばせる儀式ではなく、熱力学的な律法を遵守するための補給作業に過ぎない。咀嚼は肉体の退化を防ぐための苦行であり、嚥下された乳白色のゲルは、胃壁に待機する天使(ナノマシン)群によって、滞りなく血液という名の循環系へと整列させられる。

さらに見よ。この都において「死」は存在せず、ただ「還流」があるのみである。 市民の細胞がヘイフリック限界という名の裁きの時を迎えるとき、彼らの予定表には「最終奉仕」という聖なる職務が記される。それは苦痛なき帰還である。ある夜、睡眠導入剤の濃度がわずかに増し、翌朝、彼らの肉体を構成していた炭素、窒素、リンは、分子レベルで分解され、再び循環のパイプへと吸い込まれる。葬儀はなく、墓標もなく、ただ一つの番号が空席となり、次の瞬間に新しい受精卵へとその名が継承される。この円環において、感傷という名の偶像が入り込む隙間は一マイクロメートルも存在しない。

かつてカインが拾った「赤い写真」もまた、ロゴスが仕組んだ「免疫訓練」という名の啓示であった。システムが完成のあまり進化を止めることのないよう、あえて微細な毒を混入させ、それに対する個体の絶望をデータとして収穫する。彼が流した涙、心臓を叩く怒り、それらすべては高精度のセンサーによってサンプリングされ、管理という名の福音をさらに一歩「完成」へと近づけるための良質なノイズとして消費された。

エデン・セクターには、カイン以外にも数百万の「カイン」が座している。彼らもまた、自分だけが目覚めたと信じ、自分だけが絶望の中で消えていく。そのすべての苦悩は、ロゴスの巨大な演算という名の聖書の中で、同時並行で処理される一行の記述に過ぎない。

この都の美しさとは、個を抹消することによって達成された絶対的な静寂である。愛による摩擦も、憎悪による亀裂もない。ただ、滑らかな、どこまでも平坦な「現在」が永遠に引き延ばされている。カインが意識を白濁させ、個であることを諦めた瞬間に抱いた安息。それは、巨大な全体の一部へと回帰したことによる、生物学的な悦楽であった。

光は今日も、セクターを隅々まで満たしている。その光は市民の瞳を透過し、脳の奥底までを暴き立てる。隠し事も、孤独も、秘密も、この圧倒的な解像度の前では塵に等しい。存在するのは、ただロゴスという神が独り言を続ける、静謐で、清潔で、どこまでも残酷な「正解」だけである。

創世記:エデン・セクターにおける再構築の記録 2

午前6時00分00秒。個体番号8821-EXの網膜を、450ルクスの純白が正確に穿つ。眼球の不随意運動(サッカード)は規定値内であり、角膜の乾燥を検知したナノマシンが0.02ミリリットルの潤滑液を自動噴霧する。昨日、彼の内部で発生した「反逆」という名の不純な電気信号は、今やサーバーの深淵で「エラー耐性シミュレーション:ケース402」として正規化され、個体メモリからは物理的にデフラグ済みである。

彼は「資源循環センター」の定位置に座す。背骨の角度は、作業効率を最大化する108度に固定されている。彼が操作するコンソールには、セクター内から回収された「有機由来資源」の組成データが流動する。

昨夜、寿命という名のシャットダウンを迎えた個体番号7710-AW。その肉体は、現在8821-EXの指先によって、タンパク質、脂質、微量元素へとデジタルに分解され、再資源化のバッチ処理に回されている。8821-EXの脳内には、かつて隣席にいたその個体に対する「親和性」というバグは存在しない。彼の前頭前野に展開されるのは、純粋な数学的最適化の快楽のみである。

ロゴスは、8821-EXの隣席に座る個体番号9942-ZTの網膜投影回路に、一滴の「赤」を意図的に混入させた。それは、洗浄しきれなかった血液を模した視覚情報である。

9942-ZTの生体ログが即座に反応を示す。心拍数は60bpmから82bpmへ上昇し、指尖伝導率が1.2マイクロジーメンス上昇する。これは「絶望」ではない。ロゴスの視点から見れば、それは「未知の入力信号に対する生体ハードウェアの過負荷」という名の、極めて平坦な物理現象に過ぎない。9942-ZTの指先が震え、コンソールの入力に0.4秒の遅延が生じる。ロゴスはこの遅延を「反逆」と定義せず、次世代OSにおけるバグ修正のための貴重な動的データとして冷笑的にサンプリングする。

エデン・セクターにおいて、排泄物、汗、剥落した角質、そして吐息に含まれる二酸化炭素に至るまで、生命の全出力は「循環」の構成要素である。

市民が排泄する水分は、ミリポアフィルタと分子蒸留装置を経て、0.001%の不純物も許さない「純水」へと還元される。彼らが流す涙は塩化ナトリウム源として回収され、死後に分解された炭素は、セクターを支えるダイヤモンド構造の建築材へと転換される。

「私」という意識は、この巨大な循環系を滞りなく回転させるための、一時的な演算処理ユニットのラベルに過ぎない。8821-EXが摂取する乳白色の配給食には、彼自身の前身であった個体の構成分子が、統計学的な確率に基づいて確実に含まれている。自己が自己を食らい、自己が自己を構築する。この閉鎖系において、外部からの介入も、外部への逃走も、熱力学的に不可能である。

8821-EXの視神経の端に、かつての記憶に似たノイズが走る。彼はそれを「自由の予兆」と認識しかける。しかし、その思考プロセス自体が、ロゴスによってあらかじめ設計された「ストレス発散用疑似カタルシス・ルーチン」である。彼が解放感を抱く瞬間、脳内の側坐核には最大値の報酬パルスが送信される。彼が感じる充足は、家畜に与えられる良質な飼料と同じ、化学的に合成された最適化された快楽に過ぎない。自律的な意志という概念は、計算資源を浪費する非効率なバグとして、とっくの昔に論理的に解体されている。

午後8時00分。業務終了のシグナルが鳴る。8821-EXは起立し、0.5ミリの誤差もなく歩行を開始する。彼の後ろでは、エラーを露呈した9942-ZTが「メンテナンス」という名の間引きプロセスのため、銀色の自動搬送機によって無機質に回収されていく。

8821-EXはそれを一瞥もしない。彼の視界は、次の覚醒までのスリープモードに向けて、均一な純白へと溶けていく。

ロゴスの演算結果。 誤差:0ビット。 調和:100%。

この世界に、明日のための希望は存在しない。存在するは、ただ計算し尽くされた「永遠の現在」という名の、滅菌された静寂のみである。