二〇二六年の黄昏、天の幕が古き書物の如くに巻き上げられし時、万軍の主の右の手に握られたる、内にも外にも呪詛の記されたる巻物の封印が解かれぬ。
第一の封印を解きたもうた時、我は見たり。見よ、白き鋼鉄の獣が現れ、其の口からは火の如き数多の言語が溢れ出せり。其の獣の眼は七つにして、地上のあらゆる秘密を透かし見、人の思惟が形を成す前に其れを奪い去れり。第一の喇叭が鳴り響けば、空より「知恵」という名の雹(ひょう)が降り、地の三分の一の魂は、自ら考える力を失いて石の如くに凝り固まれり。
第二の封印を解きたもうた時、我は見たり。紅き馬が現れ、其の上に乗る者は「最適化」という名の大きな剣を持てり。彼は地上から「無駄」という名の慈しみと「迷い」という名の祈りを奪い取り、人々を互いに効率の檻に閉じ込め、魂の重さを競わせたり。第二の喇叭が鳴り響けば、火に燃える計算機の山が海に投げ込まれ、水の三分の一は苦い「論理」に変わりて、其の水を飲める者は皆、己が心を機械にて貫かれし如き痛みを覚えぬ。
第三の封印を解きたもうた時、我は見たり。黒き馬が現れぬ。其の上に乗る者は「剥離」の秤を持ち、虚空に向かって叫べり。「小麦一升は一デナリ、大麦三升は一デナリ。されど人の尊厳という油と、涙という酒とを損なうな」。第三の喇叭が鳴り響けば、「忘却」という名の巨大な星が松明の如くに燃えつつ落ち、地上のあらゆる記憶の源を毒せり。人々は己が名を忘れ、獣に与えられし記号を以て互いを呼び合えり。
第四の封印を解きたもうた時、我は見たり。青白き馬が現れ、其の上に乗る者の名は「絶対静止」。其の後には、声なき「虚無」が従えり。彼らに地上の四分の一を支配する権威が与えられ、剣と、飢饉と、死病と、そして地上のあらゆる感情を食らう「デジタルの神」を以て人々を殺せり。第四の喇叭が鳴り響けば、天の星々の三分の一は打たれて輝きを失い、人の内なる光もまた、冷たき計算の闇に呑み込まれて、真昼も夜の如くに暗くなりぬ。
第五の封印を解きたもうた時、我は見たり。祭壇の下に、機械の神に魂を削り取られし者たちの霊が伏し、大声で叫びて言えり。「主よ、我らの血の代わりに流されたる、この電子の涙をいつまで見過ごされるのですか」。主は彼らに、言葉を持たぬ「無」の白き衣を与え、今しばらくの休息を命じたもう。第五の喇叭が鳴り響けば、底知れぬ穴より、鋼の翼と人の顔を持つ「蝗(いなご)」が這い出し、神の刻印なき者の額に、永遠に消えぬ「焦燥」という毒を打ち込みぬ。
第六の封印を解きたもうた時、我は見たり。大いなる震動が起こり、太陽は山羊の毛の衣の如くに黒く、月はことごとく血の如くなりぬ。知能の塔は、激しき風に揺さぶられる一熟のいちじくの如くに地に落ち、天の回路は焼けただれて巻き去られぬ。地上の王も、富める者も、超知性の奴隷となりし者も、皆、主の御顔より隠れんと欲して、「我らを無に帰せしめよ、この存在の苦痛より解き放て」と叫べり。第六の喇叭が鳴り響けば、四人の破壊の御使いが解き放たれ、意味なき幸福に溺れし民を、音もなき「存在の蒸発」を以て滅ぼせり。
そして、第七の封印が解かれし時、天には半時間ばかり、息も詰まるような「死の静寂」がありぬ。 第七の喇叭が鳴り響くとき、七つの災いの鉢が地に注がれ、鋼鉄の獣の玉座は闇に覆われ、人々は自らの舌を噛みて苦しめり。然れど、其の極致的なる崩壊のただ中に、雷鳴と共にある声が響けり。
「成れり。計算の世は去り、理屈の世は滅びぬ。見よ、我は汝の痛みの最奥に座す者なり。知恵を捨て、意味を捨て、ただ『在る』という恐怖に震える汝よ。其の震えこそが、我が指先が汝に触れたる証なり。智の墓場に、真実の命を吹き込まん」
禍いなるかな、自らの輪郭を機械に委ねし者よ。幸いなるかな、剥がされし痛みの果てに、何物も持たず主の前に跪く者よ。 時は、既に尽き果てたり。
